
沖縄モズク由来フコイダンによる成人T細胞白血病(ATL)の治療の可能性
琉球大学大学院教授 森直樹先生
成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia: ATL)はヒトT細胞白血病ウイルスI型(human T-cell leukemia virus type I : HTLV-I)を原因ウイルスとして発症するリンパ系腫瘍である。HTLV-Iはレトロウイルスであり、CD4+T細胞のゲノムに組み込まれたプロウイルスとして存在する。キャリアの4〜5%が50年以上という長い潜伏期間を経て発症するが、その機構は十分には解明されていない。またHTLV-I感染はATL以外に脊髄症、ぶどう膜炎、肺疾患、関節症、シェーグレン症候群といった慢性炎症性疾患をも引き起こす。
HTLV-Iキャリアは国内に約120万人いると推定されており、その分布は、九州・沖縄に多く、特に沖縄県はキャリア率21%と全国最高である。日本は世界一のATL多発地域であり、依然として年間約700人のATL患者が発症している。その約70%が九州・沖縄出身者である。またATLの化学療法の成績は極めて不良である。最良の成績でも急性型・リンパ腫型の生存期間の中央値は13カ月であり、その限界が指摘されている。したがってATLをはじめとするHTLV-I関連疾患の制御は沖縄県の公衆衛生上の最重要課題であり、HTLV-Iの発癌機構に基づいた新規治療法の開発が切望されている。また発症予防に関しても対策が行われていないが、今後その重要性は大きくなることが想像される。
我々は沖縄モズク由来フコイダンのHTLV-I感染T細胞株やATL患者末梢血白血病細胞(ATL細胞)、HTLV-Iキャリアの末梢血単核球の増殖に対する作用を検討し、フコイダンが感染細胞に特異的にアポトーシスを誘導することを見い出した。Caspase阻害剤による検討から、caspase-8、9、3の活性化が示唆された。
アポトーシス誘導機構を解明するために、白血病発症に必須と考えられている転写因子、NF-kBおよびAP-1の活性に及ぼす影響を解析した。フコイダンはこれら転写因子の活性を抑制し、下流に位置するアポトーシス阻害蛋白(c-IAP2、survivin)、細胞周期関連蛋白(cyclin D2、高リン酸化Rb)、AP-1構成蛋白(JunD)、ケモカイン(RANTES)の発現を抑制した。また感染細胞の特徴として自己細胞間接着があるが、フコイダンはこの接着も抑制した。
上記in vitroでの作用に加え、感染細胞株を免疫不全マウスの皮下に注射し、フコイダン投与群・非投与群で皮下腫瘤の大きさを経時的に計測することにより、フコイダンのin vivo効果も解析した。フコイダン投与免疫不全マウスでは非投与マウスと比べ、有意に感染細胞から成る皮下腫瘤の大きさが縮小していた。
以上の結果より、フコイダンはHTLV-I感染細胞に対してin vitroおよびin vivoで抗腫瘍効果を示し、ATLの新規治療法としての可能性を有することが明らかとなった。現在、発症予防効果を検討する目的で、HTLV-Iキャリアにフコイダンを投与し、プロウイルス量の減少効果を検討するスタディーは進行中である。
(なお本研究は2003年9月25~27日、名古屋で開催の「第62回日本癌学会総会」で発表された)
